「ところで、日向」
朔弥がグラスを片付けながら、にやりと目を細めた。
「桜ちゃんにプレゼントあるんだろ」
「……なんで知ってる」
思わず眉をひそめると、朔弥は肩をすくめて笑った。
「いや、長い付き合いだからな。お前がポケットに箱なんか忍ばせてると、すぐわかる」
「えっ……」
桜が驚いたようにこちらを見つめる。
頬がじんわり熱を帯びるのを感じながら、俺は小さく息をつき、用意していた小箱を取り出した。
「桜。……誕生日おめでとう」
そう言って差し出すと、桜は両手で受け取り、緊張した面持ちでリボンをほどいた。
中から現れたのは、細身で華奢なデザインの腕時計。
文字盤は小さく、ベルトはシンプルなレザー。けれど手首に映えるように少し上品なブランドを選んだ。
「……っ、すごい……」
桜が思わず息を呑み、目を潤ませた。
「こんな、高そうなの……」
「別に。社会人が恋人に贈るなら普通だ」
照れ隠しのようにぶっきらぼうに言いながら、俺は時計を取り上げ、彼女の左手を取ってベルトを留めた。
細い手首にしっくりと収まるのを見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「似合ってる」
短く告げると、桜は頬を真っ赤に染めて、時計を両手で包み込むように見つめた。
「……大事にします。一生ものにします」
小さな声ながらも、真剣な響きがあった。
その一言に胸が詰まり、思わず視線を逸らす。
ーーどうしてだろう。彼女の言葉ひとつで、自分まで一生分の覚悟を問われているように感じる。
横で朔弥が口笛を吹き、笑う。
「やるじゃん日向。俺なんかネックレスくらいしか思いつかんかったわ」
「……黙れ」
顔をそらしつつも、桜の笑顔が横にあるだけで、何を言われても構わないと思えた。


