「にしても……」朔弥がシェイカーを拭きながら、吐き捨てるように言った。
「世の中そんな、酔い潰れたりして反応のない女を抱いて楽しいかね。俺には理解できないよ」
「……同感だ」
俺も低く答えた。胸の奥で冷たい怒りがじわりと広がる。
「正直、理解できないどころか……ただの犯罪だ。医者としても、人間としても、絶対に許せない」
桜が少し不安げに俺を見上げた。その視線を受け止めて、俺は続けた。
「だから、君には絶対そんなことが起こらないように、知識として覚えておいてほしい。自分の身を守るために」
「……はい」
彼女は真剣な顔で頷き、指先でリングをそっとなぞった。
朔弥が小さく笑ってグラスを並べ直す。
「ま、心配しすぎなくてもいいよ。日向が横にいる限り、誰も手なんか出せやしない」
「……当然だ」
自然と声が低くなる。
彼女を守る。それがどんなに過剰だと笑われても、俺には譲れないことだった。


