だが次の瞬間、朔弥の言葉に背筋が凍る。
「いやぁ、しかし真面目な話、日向も心配じゃない? 桜ちゃん可愛い上に大学生だろ? 深夜まで飲まされた挙句に“お持ち帰り”……なんてのも、あるかもしれないじゃん」
瞬間、血の気が引くような感覚に襲われた。
頭の中にありありと、知らない男に肩を抱かれ、酔い潰される桜の姿が浮かんでしまう。
想像しただけで、喉が詰まり、グラスを持つ指先に力がこもった。
「だからさ、桜ちゃん」
朔弥は軽い調子で続ける。
「男に勧められても飲むべきじゃない酒ってあるんだよ。強いスピリッツをショットで一気、あとはやたら甘いカクテルな。アルコール感薄いのに強いのが多いから」
「……なるほど」
桜は真剣な顔で頷いている。だが俺はそれすら安心できなかった。
「……そもそも、そんな場に行かせるつもりはない」
思わず低い声が出た。自分でも驚くほど鋭い響きになっていた。
桜は一瞬驚き、次いで頬を染め、グラスを両手で包み込んだ。
その小さな仕草を見ただけで、胸の奥のざわめきが少しだけ収まる。
「はいはい」
朔弥は苦笑し、大げさに肩をすくめた。
「独占欲、隠すの下手だなぁ。……でもまぁ、それだけ本気ってことだな」
笑いに混じっても、冷や汗はまだ背中に残っていた。
ーー考えただけでこんなに苦しい。
俺はやっぱり、彼女を失うなんて絶対に耐えられないのだと、思い知らされた。


