牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)



そう言って頷いたとき、不意に桜の視線を感じた。

顔を向けると、まっすぐこちらを見上げていた。
大きな瞳に、涙の残滓と、それ以上に消せない強さが宿っている。

胸の奥が、思わずざわつく。
「……桜」
名前を呼ぶ声が、自分でも驚くほど掠れていた。

視線が絡む。逸らせない。
理緒を失った痛みを語り合い、同じ重さを抱え込んでいる。
その事実が、どうしようもなく彼女を近くに感じさせた。

桜は小さく唇を噛み、けれど迷うように、ほんの少しだけ身を寄せてくる。
その仕草に心臓が跳ねた。
拒めなかった。いや――拒む理由なんてどこにもなかった。

俺はそっと腕を伸ばし、彼女の肩を抱き寄せる。
触れた瞬間、細い身体が微かに震えるのが伝わってきて、胸が締めつけられた。

「……ごめんな」
声は震え、言葉を選ぶ余裕もなかった。
「理緒の話をして、泣かせて……でも、俺も……桜にこうしていてほしかった」

彼女は小さく息を呑み、けれど真剣な目で見返してくる。
「……私も、です」

その一言に、堰が切れた。
温もりが重なり、呼吸が近づく。
互いの鼓動が重なって、境界が溶けていく。

迷いはすでに消えていた。
やがて、ごく自然に――唇が重なった。

哀しみと同じだけの温もりが交じり合う。
それは理緒の不在を埋めるものではない。
けれど確かに、この瞬間だけは、離れがたい絆へと変わっていた。