俺はしばらく黙ったまま、桜の言葉を受け止めていた。
カウンターの向こうに視線を落とし、ゆっくりと息を吐く。
「……寂しいのは、俺もだ」
低く、かすれた声だった。
「医者になって、患者の最期に立ち会うことは何度もあった。けど……理緒のときは違った。仕事としてじゃなく、全部俺の中に突き刺さった」
拳を膝の上で強く握りしめる。
「どうしたって、助けられなかった。その現実を毎日突きつけられて、処置して、説明して、笑おうとしているのに、横で痩せていく姿しか見られなかった……」
そこで言葉が詰まり、しばらく静寂が落ちた。
「……本当はな。桜と同じで、俺もあの子に“まだ一緒にいたい”って思ってた。ただ医師として、それを口にすることは許されなかった」
桜はそっと顔を上げ、俺の瞳を見つめる。
「だから、桜に言ってもらえて……少し救われた気がするよ」
俺はそう言ってかすかに笑った。哀しみと後悔を隠しきれない色を滲ませながら。



