牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)




ーー俺しか知らない、理緒のことを語ってほしい。

夜、部屋を訪れた桜にそう言われたとき、
正直、胸の奥が強く揺さぶられた。
誰にも話したことのない記憶を、彼女にだけ語ってもいいのか。
ためらいながらも、気づけば、そんな想い出をぽつりぽつりと零していた。


……医師になって数年。
望んでいた通り、患者を救う手応えを何度も味わった。
「先生のおかげです」と涙を流して感謝されることもあった。
それでも、不思議なことに、救えた命よりも
救えなかった命の方がずっと深く刻み込まれている。

理緒も、そのひとりだ。

俺がもっと勉強していれば。
もっと病状の変化に早く気づいていれば。
……そんな“もしも”を、今でも繰り返し考えてしまう。

病室で笑った顔も、しんどそうに枕に顔を埋めていた姿も。
全部、はっきり思い出せる。
そしてそのたびに胸の奥を抉られる。

救えなかった悔しさと、
それでも確かに繋いでくれた彼女の時間と。

あの冬の出来事は、俺の中で今も、終わっていない。