牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)



最後の瞬間を、覚えている。

病室の空気は、痛いほど静まり返っていた。
モニターの電子音が、細く、短く途切れ――やがて完全に消える。

俺はそっと時計に視線を落とし、低く告げる。
「……心停止、確認」

両親の震える呼吸が背後から聞こえる。
それを振り返らないまま、淡々と手順を進める。

「瞳孔反射、消失」
小さなライトで光を当て、確認する。
光に応じることのない瞳孔が、冷たく現実を告げていた。

「自発呼吸、消失……」
声はいつも通り冷静で、感情を一切滲ませない。
ーーもう医師として何度も繰り返してきた“儀式”だ。
そう自分に言い聞かせるように、ただ事実を並べていく。

「……死亡確認。時刻は――」
告げたその瞬間、手元のペンが僅かに震えた。
しかし顔には何の表情も浮かべず、ただ記録用紙に時刻を書き込む。

背後で嗚咽が漏れる。
けれど振り返ることはできなかった。
ーー今だけは。医師として最後まで、この役割を果たすために。