牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)


発作の回数が、目に見えて増えていた。

病室に入った瞬間、理緒の呼吸が荒いのがわかった。
肩で息をし、唇は紫色に変わっている。

「血圧とSpO₂、すぐ確認!」
ナースに短く指示を飛ばし、自分は酸素マスクを手に取った。
「酸素流量を5リットルに上げて」
「はい!」

モニターの数値を一瞥する。血圧はギリギリ、SpO₂は85%。
(……まずいな)

「鎮静を少し足す。フェンタニル0.5mg、静注で」
「了解です」

理緒の肩に手を置き、低く声をかける。
「理緒、すぐ楽にするから。我慢しなくていい」

数分後。
肩で必死に呼吸していた彼女の胸が、次第に落ち着きを取り戻す。
紫色だった唇に少しずつ血色が戻っていく。

「よし……」
ナースに頷いてから、酸素流量を下げるよう合図する。

やっと安堵の色を浮かべた理緒が、ふっと笑った。
「……先生、ありがとう」

――その笑顔に、心臓が強く締めつけられる。

一時的に楽にすることはできる。
でも、それは“治す”ことじゃない。
本当に必要なのは未来を生きられる力で……俺は、それを与えられない。

処置を終えたあとも、彼女の笑顔が焼きついて離れなかった。
救えないと知りながら、“救った気になる”自分が一番嫌いだった。