「……ねぇ先生」
静まり返った病室。消灯後、ナースステーションからの灯りだけが、薄暗くカーテンの隙間に差し込んでいた。
ベッドに横たわった理緒が、不意に声をかけてきた。
「ん?」
カルテを閉じかけていた俺は、振り返る。
「……夜、あんまり眠れないんだよね」
理緒は天井を見つめたまま、弱々しく笑った。
「横になると……苦しくて。だから、こうやって背もたれに座ったままじゃないと……落ち着かないんだ」
「……起座呼吸か」
俺は小さく呟き、すぐに表情を引き締めた。
「今夜はモニターもう少し細かくつけてもらおう。心拍も……酸素も確認して」
「大げさだなぁ」
理緒は肩を竦め、冗談めかしてみせる。
「でも、ほんと、こうして座ってると少し楽になるの。不思議だよね」
「不思議じゃない」
首を振り、淡々と説明を続ける。
「横になると血流が心臓に戻ってきて負担が増える。だから呼吸が苦しくなるんだ。……身体が、そうせざるを得ないだけだ」
「ふーん……」
理緒は頷き、でも少し目を細めて微笑んだ。
「でも、そんな難しいこと言われても、やっぱり“眠れない”ってのが一番きついんだよね」
俺は返す言葉を探し、しばらく黙った。
そして椅子を少し引き寄せ、彼女の隣に腰を下ろす。
「……じゃあ、少し付き合うよ」
低い声で、静かに言った。
「眠れるまで」
理緒は驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。
「……じゃあ、子守唄でも歌ってくれる?」
「それは……」
苦く笑うと、理緒は「ねぇ、冗談だよ」と小さく吹き出した。



