窓の外が赤く染まる時間、理緒は膝を抱えてベッドの上に座っていた。
手元には、小さな手紙。今日、友達が病室に遊びに来た時に置いていったものだ。
「“早く治るといいね”……か」
ぽつりと呟いた声には、明るさはなかった。
俺は彼女の視線が窓の外に向けられているのにふと気づいた。
「……どうした」
問いかけると、理緒は小さく笑って首を振った。
「いや……別に」
少し間を置いて、ぽつりと続ける。
「ただ……“治るといいね”って。言われると……なんか、辛いなって」
声はかすかに震えていた。
「治らないって、分かってるのに。……でも、言った子は悪くないんだよね。励まそうとしてくれてるだけだから」
彼女の肩が小さく揺れる。
必死に笑おうとして、うまく笑えていない顔。
俺は黙って理緒に近づき、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。
「……それでも、辛いんだな」
静かな声で、彼女の気持ちをそのまま受け止める。
理緒は俯いたまま、小さく頷いた。
「……私、“治らない”ってこと、やっぱり受け入れきれてないんだと思う」
しばらくの沈黙のあと、ゆっくりと言葉を選びながら口を開いた。
「治らない病気でも……“生きられる時間”はある。短いかもしれないけど、その時間をどう過ごすかで、意味は変わる」
「……意味、か」
理緒が小さく呟く。
「俺は医者だから、奇跡を約束することはできない。……けど、“今ここにいる理緒”を大事にしたいと思ってる人間は、たくさんいる」
努めて穏やかな声で。諭すように、彼女に声をかけた。
「それだけは、絶対に忘れないでいい」
理緒はその言葉に、少しだけ涙ぐんで笑った。
「……ありがと。先生、ずるいな。そういうこと言うの」
「医者だからな。多少はずるくても、許されるだろ」
わざと軽口を叩くと、理緒はくすっと小さく笑った。
赤い夕日が差し込む病室に、その笑みはひどく切なく、そして温かかった。



