牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)




「……じゃあ、恋愛は?」
目を閉じていたはずの理緒が、ぱちっと目を開けて、からかうような声を投げてきた。
「先生、彼女いたことあるの?」

思わず手を止めた。
「……いきなり何を聞くんだよ」

「いいじゃん、別に減るもんじゃないんだし」
理緒はにやっと笑って、ベッドの上で少し身を乗り出す。
「大学って、恋愛とかそういうのいっぱいあるんでしょ?ドラマだとそうだし」

「ドラマと一緒にするな」
俺は呆れて眉を下げ、ペンを置いた。
それでも返事を待つ理緒の視線に観念して、小さく息を吐く。

「……まぁ、いなかったわけじゃない」

「おぉ」理緒が声を上げる。
「じゃあ先生も普通に青春してたんだ」

「普通、かどうかは知らないけど」
俺は視線を逸らし、窓の外の空に目をやる。
「……でも、勉強やピアノを優先したことの方が多かったな」

「えー、つまんない」
理緒は肩をすくめて笑う。
「先生みたいに真面目すぎる人に捕まる彼女って、大変そう」

「……そうかもな」
苦笑いを返しながらも、胸の奥に小さな棘が残る。
……幸せにしたいと思いながら、結局誰一人幸せには出来なかったのかもしれない。
――そんな思いが、ふとよぎった。