そのうち、教室の外から、だんだんと足音や
笑い声が近づいてきた。
廊下を駆ける靴音、ドアを開ける
「おはよう!」という明るい声。
ひとり、またひとりと教室に入ってきて、
いつの間にか席のまわりは賑やかになっていく。
「春休み、どこ行った?」
「見て!新しいスマホケース買ったんだ」
「席、出席順かよ~!」
友達同士が盛り上がる声が、
教室のあちこちで広がる。
私はスマホを触るふりをしながら、
視線だけ泳がせた。
いつも通り、誰にも話しかけられることはない。
「できるだけ、人の不快にならないように……」
そう思いながら席に静かに座り、
余計な動きはしない。
周囲に気をつかい、息を潜めるような感覚で、クラスの波の外側にいる自分。
隣の席の子は友だちと楽しそうに笑い合っている。
花の存在は、輪の外に――
まるで空気みたいに静止している気分。
ガヤガヤした空気の中、
自分だけが教室の真ん中で時が止まっているみたいで、その感覚が胸の奥に静かに広がっていく。
窓の外の桜は、さっきと同じように風に揺れていた。
