すると、椎名さんの友達が勢いよくぶつかってきた。
友達同士のふざけあいの流れでよろめいたようだ。
冷たい視線を花に送り、
「……ごめん」
と抑えた声で呟いた。
その言葉の奥には、遠慮も優しさもなく、
むしろ不快さが滲んでいる。
その一言が、
じわりと花の胸の奥で波紋のように広がる。
「ねえ、あんな子いたっけ?」
「うちらと全然ジャンル違うよね」
と後ろから声が響いてくる。
教室の一角で生まれた冷たい空気が、
花の席をすっと包みこむ。
「名前なんだっけ?」
――私の名前は……
遠いあの日、ばぁちゃんが微笑みながら
呼んでくれた大切な名前。
でも、今はその記憶さえ
霞んでしまいそうになる。
「名無しさん」
椎名さんの声は
教室の隅々まで届くほどはっきりと響いた。
