書くことは私の秘密です

 次の一週間、私は会社に顔を出すたびに胸を高鳴らせた。

 フロアに入ると同時に高田くんが所属する部署に目がいく。
 月曜日と火曜日は何も起こらなかった。

 水曜日の朝に高田くんと目が合った。
 高田くんと視線が合った瞬間に身体が硬直してしまった。
 一方、高田くんは周囲を見渡す。
 部署に誰もいないことを確認すると、高田くんが小さく手を振った。

 私は恥ずかしさのあまり気がつかないフリをした。

 水曜日の夜の9時。
 リラックスした時間を過ごしていると、と表現したいが、私はまったくリラックスしていなかった。
 読みかけの本を読もうとしたり、パソコンで文章を打とうとしたのだが、どちらも手につかなかった。
 思い浮かぶのは土曜日のデートだ。

 私はクローゼットの中の衣類を引っ張り出す。
 無造作に衣服を床に放り投げる。
 いくつかの組み合わせを考える。
 が、どれもダサく見える。

 ため息が出る。

(いっそ新品を買おうかな)

 今月の家計簿を頭に浮かべているとスマホが鳴った。
 LINEの新着がある。
 スマホを手にする。
 高田くんからのLINEだ。

〈夜分に失礼します。土曜日ですが、映画館に行きませんか? 今、大ヒットの映画があるんです。〉

 映画は好きだ。
 私は小説も好きだし、ドラマやアニメも好きだ。
 物語の形式を取っている娯楽がどれも好きなのだ。

 LINEの返信をする。

〈映画いいね。〉

 すぐに既読がついた。

〈本当ですか?!じゃあ、ネットチケットをこちらで手配しますね。〉

 続いて、高田くんは映画のタイトルと上映時刻を送ってきた。
 映画は邦画でテレビコマーシャルでも見たことのあるものだった。
 上映時刻は13時10分からだった。

〈近くでランチをしたあとに、映画を観に行きませんか?〉
〈うん、それでお願い。〉

 高田くんは映画館からすぐそばの駅を待ち合わせ場所に指定した。

〈駅の改札口付近で11時30分に待ち合わせはどうでしょうか?〉
〈いいと思う〉
〈何かあればいつでもLINEしてくださいね!〉
〈ありがとう〉
〈では、おやすみなさい。土曜日、とても楽しみにしてます!!〉

 高田くんからかわいい犬のスタンプが送られる。
 スタンプの犬はうつ伏せになっていた。
 吹き出しがついていて、犬が「おやすみなさい」と言っている。

〈おやすみなさい〉

 と私もメッセージを打ち込んだ。

 本当は、

〈楽しみにしてるけど、何年ぶりかのデートでガチガチに緊張してる。着ていく服もないし、会って何を話せばいいかもわからないし、困ってる〉

 と書きたかったが、当然そんなことは書けもしなかった。