「いやいや、ミユが泣きそうなのはおかしいだろ。てか、泣くほど青山が好きなのか? あいつの何処がいい訳? お試し彼女って言っといてミユを大事にしてくれなかったじゃん」
「片桐が言う? 片桐も同じなのに?」
涙の気配を察知して片桐が反論を開始。
「確かに俺はお試しで付き合ってみるかって聞く、この子にも聞いた。ただし、これには前置きというか条件があるんだ。ミユに言わないだけで」
「前置き? 条件? なにそれ」
「聞いてた? ミユには言わねぇって」
「それじゃあ意味が分からない」
だからミユには言わない、片桐がそう念を押した時だった。
「うわぁぁぁぁっ!」
突然、彼女が大声を出して座り込む。まるで自分もこの場に居るんだとばかり。
わたしが崩れ落ちる姿にオロオロするだけなのに対して、片桐の方は目線を揃えると両手を合わす。
「ごめん! 俺こういう奴だからさ」
謝ってるのに傷ついた顔をしている。さらにスカートが汚れないよう配慮を忘れない。
「……お試しで付き合ってくれなくていい」
彼女は鼻を啜った。
「うん」
「アタシだけを想ってくれる人、探す」
「それがいいね」
どうやら何かしらが成立した様子。手を借りずに立ち上がった彼女はわたしをキッと睨む。
「アタシ、バイト辞める! あなたと一緒に働きたくないもの!」
決別宣言をして勢いよく走り去った。
「えっ、えっ、わたし!? な、なんで? 悪いのは片桐じゃないの?」
「あーあ、ミユのせいでまた新人が辞めちゃったか。こりゃ店長に言い付けないと。店長怒るだろうなぁー」

