「か、片桐!」

 元彼を前にして大胆な密着、慌てて剥がそうと身を捩る。が、びくともしない。がっちりホールドされた。

「さっき告られてた子、清楚な子だったなぁー。羨ましい。で、付き合うの?」

 片桐はプライベートへ踏み込む物言いを人懐っこさで中和する。わたしがこんな発言しようものなら大問題だが、彼なら許されてしまう不思議。

「……見られてたのか」

「いやいや、見せ付けたくてやってるんでしょうに? で、付き合う?」

 八重歯を覗かす催促に青山君は額へ手を当てる。そりゃあ対応に困るだろう。しかも残念なことに答えを聞くまで引き下がらない、片桐はそういう性格だ。

 青山君と片桐の性格は真逆と言っていい。たとえば急に雨が降ってきたなら青山君は雨宿りして止むのを待つ。一方、片桐は誰かの傘に入れてもらう、もしくは傘をささず濡れるタイプ。
 お互い目立つ存在なので名前と顔は認識していても、関係を築くとなれば難しそう。というか断言しよう、二人は絶対に気が合わない。

「君には、いや君達には関係ない」

 君達と言い直した部分に含みを感じた。つまりわたしが片桐側と言いたいのかもしれない。
 ちなみにわたしの場合、相手に合わせて雨をしのぐ。雨宿りも相合傘も選択に入る。

「だよねぇ〜お前が誰と付き合おうと俺やミユには関係ない」

 うん、うん、一人で頷く片桐。

「同時にミユが誰と付き合おうと青山には関係ない」

 そうだろう? と同意を求められ、げんなりした。

「当たり前でしょ。もういい? バイト遅れちゃう」

 周囲の目もあり、これ以上この場に留まりたくない。片桐の袖を引っ張って促すと、なぜか嬉しそうな顔をした。

「バイト上がったらマンゴープリン食べない? ミユ、好きだろ?」

「分かった、分かった。早く行こうって!」

「よっしゃあ、ミユの奢りな〜!」

 たかっておいて、わたしに奢らせた事は一度もないくせに。