「失恋の傷が癒えないのにバイト行くなんて、ミユは働き者だなぁ〜エラい、エラいぞ」

 ちっとも尊敬してないテンションで言われてもな。無視して、むなしく響くお世辞と教室のドアを潜る。

「なぁ、こんな時くらい休んでもよくない?」

「ただでさえ人手不足なのにシフトに穴開けたら迷惑ででしょ。それとバイトしてる方が余計な事を考えないで済む」

 片桐とはクラスメートでバイト仲間でもある。彼はバイクを買う資金を得る為、わたしは青山君の誕生日プレゼントを買おうと駅前のファミレスで働く。
 誕生日を迎える前に破局したので目標は無くなったものの、話した通り、時間があると青山君を想ってしまうので。
(ーーにしても切り過ぎちゃたか、結べるかな)
 バイト中は衛生上の観点で肩につく髪はまとめないといけない。つい勢いで切ってしまった。

「ミユはまだ青山が好きなんだ? 思ってたのと違うって言われて振られたんだろう? そんな失礼な事を言う奴なんか、さっさと忘れたらいい」

「まだって、一週間しか経ってないよ? 片桐みたく次から次へと気持ちを切り替えられる人ばかりじゃない」

 軽薄な恋愛観をこれ以上聞きたくないので早足になる。だけど片桐の上履きは事なげについてきて会話を続ける。

「おい、人聞きの悪い言い方するなって! 俺は前向きなだけだ」

「わたしは事実を言ったまで。片桐って彼女が居ない時期がないじゃん」

「うっ、それは……」

 わたしの周りをコミカルに動き回って茶髪も跳ねる。なんだか大型犬みたい。
 廊下を行き交う生徒等が様子を笑い、携帯電話のカメラを向けてきた。

「おっ、ツーショット撮ろうぜ! イェーイ!」

 お調子者はレンズに気付き、わたしの肩を抱くとピースサイン。避ける隙が無い。