「クリスマスっていえば、お約束よねぇ。
いいなぁさお先輩は。」
「課長は新婚さんだし、二人でクリスマスなんだろうな。」
「課長のところは違うでしょう。
営業してると思うな。年末だし。」
「それもそっか。」
あぁまったく、給湯室のひよこどもは、いつになったらここを巣立つのかしらねぇ。
いつもいつも、私が気にしていることをピーチクパーチクとうるさい。
ただでさえ年末の給与計算は担当泣かせだというのに。
「佐々木課長、あのひよこたちにはお仕事を振ったの?」
「ああ、しょうがないよ。
各課に年末調整とか扶養状況の確認とかお願いしたけど、リモートで返事の取りまとめが遅くなってる。
仕事したくてもできないんだよ。」
「じゃあ私が今日ここに来た意味はなんですかね。」
「仕事しながら引き継いでいってと思ったけど、これじゃあ……ね。
もう有休消化するんでしょ、何日かまとめてとっているみたいだし。」
「いえ、それが、その……。
いまいち決め手に欠くというか、みたいな?」
「みたいな?」
あぁ、こういうしかないのよ。
私だってお預けくらってるのよ!
同居も始めたし、何よりも両家の親には了解とってるし。
……まったく、あのヘタレは、いつまでたっても自分から動こうとしないのよ。
「なんか……大変そうだね。
ま、頑張って。」
佐々木君には低気圧になった自分がわかるのだろう。
早々に避難した。
「これじゃ仕事にならないから、各課長に明日までに現状の確認をメールで返事をするようにお願いした。
もう書類を見ながら作る暇はないからね。
届き次第、総攻撃だからね。」
佐々木君は今回の仕事をひよこたちにも経験させようといろいろと声をかけていた。
一人一人は仕事ができるのに、乗り気にならないと動かない。
自分からは動かないので、おぜん立てをして、仕事をしてもらっているのだろう。
「でも一人一人の仕事の能力値はかなり高いんだよ。
連携とかすればいいのに、コミュ力がね。」
わかる、わかるよ、佐々木君。
それでも会社なのだから、うまく使って共存しないとねぇ。
ご愁傷様。
私はもうここを離れるから、幾分気が楽だけど……
結婚後はリモート中心のパートで別部署に所属、データ入力などをすると聞いている。
ふぅ……なんだか疲れたな。
ランチぐらいは静かなところで食べたい気分ね。
そう思って、一人でキッチンカーのお弁当を頼み、公園のベンチで食べていた。
ふと、気付けば修君から連絡が入っていた。
「今日は職場の前で待っているよ。」
あれ? ここに来るの?
今までこんなことなかったし、第一キミたちのお世話はどうするのよ。
そう思って「大丈夫?」と返した。
すると、猫たちは今日お休みで、ご飯は済ませたから、後のことはお義母さんがするって。
「デートするなら、人が少ない平日がいいよ。」
とにかく終業時間を待っていた。
チャイムが鳴ってからは、帰るまでに最速時間の記録を出した。
もう何が何だかわからないけど、修君が来ると思うと夢中だった。
「さおちゃん、こんばんは。」
朝も一緒にいたじゃない。
そう思って振り向くと、普段と違う格好の修君。
思わず、息をのんだ。
イルミネーションの輝きの中、スーツを着てる修君から目が離せない。
「待った?」
最速で来たんだから、待つわけないよね。
「ちょっと早く着いちゃった。
さおちゃんとデートだから。」
もう、今日の修君はかわいくてずるい。
「じゃ、行こうか。」
今日は修君が連れて行ってくれるのね。
ゆりかもめに乗って桟橋へ。そこには客船が待っていた。
ディナークルーズって、初めて。
こんなに光に包まれた夜は、今までなかったかもしれない。
長くここに通っているけど、家にまっすぐ帰る電車ばかりで、この辺りを歩くのは初めて。
おしゃれなディナー、ピアノの演奏、窓から見えるベイフロントの眺め、高層ビルの灯り……すべてがいつもとは違う輝きを放っていた。
船のデッキに出て、二人で夜景を眺めていた。
さすがに寒くなったので、中に入ろうとすると、修君が
「さおちゃん、ちょっと待ってね。」
修君がポケットに手を入れたとき、心臓が痛いほど鳴っていた
そして中から指輪の箱を取りだして、ゆっくりと開けた。
「さおちゃん、僕のお嫁さんになってください。」
そのあとのことはあまり覚えていないの。
頭が真っ白になって、涙があふれた。
涙でにじんだ夜景が、まるで星の海みたいに見えた。
胸がいっぱいで、うまく言葉にできなかった。
……修君の胸にもたれて、「うん」というのがやっとだった。
待ってたよ 心の花が 咲いていく 君と歩こう 夢のある道
やっと咲いた、この恋のシクラメン……冬でも、あたたかい花。
本当に素直でまっすぐな修君。
素直じゃなかったのは、私だったのね。



