桃ちゃんセンセと田宮くん



「goodじゃなくてspecialや、wonderfulでもいいわけでしょ。もっと簡単ならokayでも。なんでgoodなの?」
 意識していなかった質問にたじろいだ。けど、田宮くんの顔は至って真剣だ。私は顎に手を当てて、あくまでも、と前置きをして自身の考えを伝える。
「金子みすゞって、日常の中に落ちている小さな気付きやささやかな幸せを詩にしている、って私は感じるの。と、なると、特別や、素晴らしいを意味する単語は相応しくない。逆にokayはカジュアル過ぎて、彼女の――表現が正しいかわからないけど――慎ましい詩には合わないような気がして。だからあくまで私はだけど、日常的に使われていて、壮大な表現じゃないgoodがしっくりくるんだ」
 田宮くんは何度かwe are all〜に続く英単語を入れ替えながら呟くが、腑に落ちない顔をする。その顔を見つめながら私は田宮くんに早く帰りなさい、帰宅を促したのだが。

「桃ちゃんセンセ、もう一回諳んじてよ。最後の文だけでいいから」
 あろうことか、田宮くんはもう一度私に暗唱するように求めたのだ。私がダメと言う前に。
「ね、お願いします」
 ペコリと殊勝に頭を下げながら。
 仕方ないと私はため息をつき、最後だと前置きをしてゆっくりと諳んじる。