家では日本語だったから、もちろん日本語も喋れる。けれど私にとっては、生まれてからずっと向こうで暮らしていたのだ。思考回路は英語圏で慣れている。
気をつけてはいた。けれど、夏休みで勤務時間もいつもより長く、更に受験生たちから質問責めにあって疲れ果ててもいた。
だから誰もいなくなった瞬間気が抜けて、日本人で一番好きな詩人の、向こうで暮らしていた時も何度も口にしていた詩が無意識に零れていたのだ。
恥ずかしくて何も言えない私に、田宮くんは表情を変えずに近づいてきて静止する。
どうやら私が掃除していた隣の席で自習していたようだ。あった、と小さい声で呟き、モニターの後ろからシャーペンを手に取ると、私に向き合って訊ねた。
「みんな違ってみんないい、のところだよね。桃ちゃんセンセはなんで、We are all different, and we are all good.って訳したの?」
「なんでって?」
質問の意図がわからない私は訊ね返す。田宮くんは高3にしては大人びた顔をしながら口を開いた。

