桃ちゃんセンセと田宮くん


「桃ちゃんセンセと拓真先生、とうとう付き合い始めたらしいよ」
 拓真先生とは、桃ちゃんセンセと同じくチューターだ。ずっと桃ちゃんセンセを狙っていたのは知っている。さすがに校舎内ではアプローチしてはいなかったが、しょっちゅう同じ日にアルバイトに入っていたし、帰りも一緒になるように時間を合わせていたのだから生徒は皆拓真先生の気持ちを知っていた。
 だけど、同時に俺は桃ちゃんセンセは靡かないと思っていたのだ。明らかに人間力というのか、人生の深みが違っていたから。
 むしろ、桃ちゃんセンセも俺に少なからず好意を抱いていると自惚れていたのだ。

 でも複数の塾生仲間から同じ話を聞いた俺は納得するしかなかった。自分の気持ちに気付いていなかったとはいえ、俺はステージにすら上がっていなかったのだから。
 好きと気づいた瞬間に失恋とは笑うに笑えない話だが、桃ちゃんセンセの幸せを潰すほど野暮ではない。何も言わずいつしか思い出になるのを待てばいい。それだけの話だったのに。

「おめでとう、田宮くん」
 合格を報告しにいった塾でそう祝してくれる桃ちゃんセンセの横で、彼女の恋人の拓真先生はこう言ったのだ。
「まぁ、田宮くんなら当然の結果だ。合格は確実だったから何も心配なかったけどな」
 と。
 その瞬間、桃ちゃんセンセはすごい目で拓真先生を睨みつけた。
「……拓真先生、何を言っているの。田宮くんが合格したのは本人の素質もそうだけど、それに驕ることなく毎日努力していた結果だよ。その発言をしていいのは、本人だけで、ただ周りで見守るしかなかった私たちが言っていい言葉じゃない」