桃ちゃんセンセと田宮くん


 田宮くんのことを忘れるはずない。それくらい印象に残る生徒だった。
 年より大人びた表情もさることながら、既に自分の世界を持っている、独特の雰囲気を持った生徒だった。

 私が先生と呼ばれていたのは大学生の頃。予備校で生徒の質問を聞いて答えるチューターとしてアルバイトしていたほんの僅かな期間だ。
 予備校と言っても講師はいない。授業はオンデマンド配信だし、正社員の仕事は受験指導と校舎運営である。生徒は自分のレベルに合った授業を職員に進められるまま受け、自ら学んでいくシステムだった。
 私のようなアルバイトの役目は主に雑用とオンデマンド授業で分からない箇所があった時の質問対応だ。
 本部にはオンデマンド授業に対応出来る質問受付の部署はあったから本来は必要ない仕事だけど、生徒や保護者にとっては、いつでも質問があれば聞くことが出来る、というのは安心材料の1つである。
 特に卒塾生で難関大学に通っている学生というのはポイントが高いらしい。
 かくいう私も、経済学で有名な国立大学の経済学部に合格したことでチューターに勧誘され週に数回、アルバイトを始めたのだった。

 田宮くんが入塾してきたのは高3の時。私が大学4年生の頃だ。
 国立の中高一貫ので、トップから数えて常に10番以内にいる田宮くんは、チューターに質問しに来る生徒ではなかった。