桃ちゃんセンセと田宮くん


 
「それ、金子みすゞの詩?」
 問いかけではなく確認。
 飛び上がるほど驚いてこっちを見た桃ちゃんセンセに、俺は再度確認する。

「桃ちゃんセンセ、合ってる?」
「う、うん。合ってるよ、田宮くん」

 少し落ち着いた顔で答えた桃ちゃんセンセは、ちょうど俺が自習で座っていた隣の席を掃除していた。俺は自ずと桃ちゃんセンセに近づくことになる。
 混乱して固まっている桃ちゃんセンセの隣の席から忘れていたシャーペンを手に取る。このまま帰ってもよかったが、まだ混雑している様子が聞こえてきた俺は桃ちゃんセンセに質問した。

「みんな違ってみんないい、のところだよね。桃ちゃんセンセはなんで、We are all different, and we are all good.って訳したの?」 
「なんでって?」

 深い意図はなかった。ただ、この詩の英訳を聞くのは初めてではない。その時の教師は、特別を意味するspecialや、大げさな表情のwonderfulを当てはめていた。だからなぜ帰国子女の桃ちゃんセンセがgoodと訳したのか引っ掛かった。
 そんな薄い興味で聞いた。特に考えて質問した訳じゃないけれど、普段からテンションが低いからか、真面目な顔をして黙って見つめていたら真剣に悩んでいるように見えるらしい。
 案の定、桃ちゃんセンセも俺が困っていると勘違いした様子で真剣に考えた末、答えをくれる。

「金子みすゞって、日常の中に落ちている小さな気付きやささやかな幸せを詩にしている、って私は感じるの。と、なると、特別や、素晴らしいを意味する単語は相応しくない。逆にokayはカジュアル過ぎて、彼女の――表現が正しいかわからないけど――慎ましい詩には合わないような気がして。だからあくまで私はだけど、日常的に使われていて、壮大な表現じゃないgoodがしっくりくるんだ」