桃ちゃんセンセと田宮くん




「……We are all different, and we are all good.」

 塾で朝から晩まで勉強していたからさすがに心身ともに疲れ果てていた俺は、うっかり自習室に愛用のシャーペンを忘れたことに気付いた。別に家に帰って寝るだけ。明日も校舎が開く8時にはここに来るのだから急がなくてもいい。
 そう思ったのだが、今日は人手が少ないのか、下校を促す職員は一人だけ。さすがの夏休みは皆、切羽詰まるのか、――勉強しているかどうかは置いといて――入口付近は生徒で一杯だった。
 そもそもこの校舎は7階にあって、6人乗りのエレベーターが1台と階段しかない。頭も身体も疲れ切っていた俺は階段で降りる気力もなく、ワイワイガヤガヤしている生徒たちと一緒にエレベーターを待つのも煩わしく、職員に一言断って忘れ物を取りに戻ることにした。
 自習室には桃ちゃんセンセが一人だけ。誰も居ないと油断していたのか、楽しそうに英語で何か諳んじていたのだ。

 受験生の性というかクセというか、英語を聞くと瞬時にリスニングモードに頭のスイッチが切り替わった俺は、彼女が口にしている一節を無意識に訳していた。
 桃ちゃんセンセが何を読んでいたのかはすぐにわかった。そのフレーズは日本ではあまりにも有名な詩の一節だったからだ。