桃ちゃんセンセと田宮くん



「ねぇ、桃ちゃんセンセ」
「な、何?」
「今彼氏いる? 結婚してる? していないなら口説いていい?」
「ちょっ……! 何言って……」
 私は慌てた。結婚はおろか、久しく彼氏もいない。あの塾のアルバイト仲間と付き合ったのが最後の記憶だ。

 そもそも田宮くんが悪いのだ。高3のくせに変に大人びていて、自分の世界を持っていて。
 そういう男に私は弱い。あの時告白を断れたのは、まだ田宮くんが高校生で、それもアルバイト先の塾生という倫理観が働いたに過ぎない。
 一時期目で追っていた田宮くんのような男の子に告白されて一気に理想が高くなり、すっかり拗らせた私は恋愛の仕方なんか当の昔に忘れていたのに。
 見透かされた、と思った。私が当時、いや、今もこうして対面しているだけで心を寄せていることを。動揺している私に田宮くんはホッと息を吐いた。
 
「良かった、その反応ならまだチャンスありそう」

 田宮くんはようやく年相応に見えるようになった笑みを浮かべると、私に宣言した。

「今度は立場も違うし彼氏もいないなら。アッサリ引き下がるつもりはない。……覚悟していて、桃ちゃんセンセ」

 私は田宮くんを見つめながら、新しい恋のはじまりをひしひしと感じていたのだった。