桃ちゃんセンセと田宮くん



 何をされるのか分からないほど世間知らずではない。そして、高校生――厳密にいえばもう卒業するが――と付き合うほど無知な大人ではないし、当時私には付き合い始めたばかりとはいえ彼氏もいた。
 田宮くんの告白に、ごめんなさいと返事をして。田宮くんもわかった、ごめんねと言ってそれで終わったはずだった。

 終わったはずなのに。

 私は、目の前の田宮くんにもう一度視線を送った。
 落ち着き払った姿は昔と変わらないのに。高校の制服でなくスーツ姿というだけで、男の子から一気に大人の男性に見えるのが不思議だった。
 
「桃ちゃんセンセ。今日時間ある? せっかく久しぶりに会えたんだから後で少し話せない?」

 顔も精悍になった。すっかり大人になったのに、声だけは昔と変わらない田宮くんに誘われた私は知らず知らずの内に了承の返事をしていた。
 スマートに連絡先を交換した田宮くんも予定があったのか、足早にこの場を後にする。
 
 当時、現場にいたアルバイト仲間でもある彼氏が断ったと何度も言っているのに恐ろしいほど嫉妬をして、腹が立って経った2週間で別れた黒歴史と、それきり恋人もいないまま仕事人間として生きていた自分を思い出したのは田宮くんの背中を見送った後だった。