- 病の終焉と最後の願い -
音々との再会から、怜は再び希望を取り戻した。

彼が病室を訪れると、音々はいつも笑顔で迎えてくれた。二人は、窓から差し込む光を浴びながら、他愛のない話をした。怜が研究の進捗を語ると、音々は目を輝かせて聞いてくれた。音々が日々の出来事を話すと、怜は真剣に耳を傾けた。

しかし、病状は確実に悪化していた。

ある日の午後。怜が病室を訪れると、音々はベッドの上で眠っていた。彼女の顔色は、これまでになく悪く、呼吸も浅い。怜は、彼女の手を優しく握った。

その日を境に、音々は意識が朦朧とすることが多くなった。そして、ついに怜の名前を呼ぶこともできなくなってしまう。それでも、怜は毎日、彼女の病室を訪れた。音々の手を握り、彼女の耳元で優しく語りかける。

「音々、今日も空が綺麗だよ」
「今日の研究は、少しだけ進んだんだ」

音々の瞳は、もう怜を映すことはなかった。しかし、彼女の手は、怜の手を握り返そうとするかのように、わずかに動いた。

ある夜。怜は、音々の病室の片隅に置かれた、一冊の古い日記を見つけた。それは、音々がこれまで書き綴ってきた、彼女の人生の記録だった。

「これ、読んでみて」

音々の母親が、そう言って微笑んだ。母親の目には、涙が浮かんでいる。

「ねねが、怜くんに一番に読んでほしかったみたい」

怜は、日記を手に取った。そこには、音々の、怜に対する感謝の気持ちや、病気への恐怖、そして、彼への深い愛が綴られていた。

日記の最後には、こう書かれていた。

「もし、私がこの世を去ってしまっても、怜くんは自分の人生を歩んでほしい。私の病気を治すことよりも、あなたがあなたらしく生きていくこと。それが、私の一番の願い」

怜は、日記を読み終えると、声を出して泣いた。彼の心は、音々を救いたいという使命感と、彼女の最後の願いとの間で、激しく揺れ動いた。

「音々…どうして、そんなこと言うんだよ…」

怜は、音々の手を強く握りしめた。彼女の手は、氷のように冷たかった。

怜は、音々の願いを受け入れられなかった。彼が、彼女を救うために生きてきたのだから。しかし、音々が残した言葉は、怜の心に深く刻まれていた。

彼は、音々のために、そして自分自身の未来のために、ある決意をする。