君のもう一度を 僕が叶える

- そして -
怜が再び研究の道へと歩み始めた後も、音々の病状は悪化の一途をたどっていた。

彼女は、もはやベッドの上で体を起こすこともできず、怜の名前を呼ぶこともできない。ただ、時折、怜が語りかける声に反応するかのように、わずかに指先を動かすだけだった。

「音々、今日も空が綺麗だよ。ほら、君が好きなうさぎの雲が浮かんでいるんだ」

怜は、音々の耳元で優しく語りかけた。音々の瞳は、もう何も映していない。それでも、怜は彼女に、外の世界の美しさを伝え続けた。

ある日の夕方。怜は、音々の手を握りながら、静かに語りかけた。

「音々、覚えているかい?君と初めて出会った、あの日の夕焼けの色を」

音々が教えてくれた、夕焼けの色。
オレンジ色の中に、ピンクや紫が混ざり合った、美しいグラデーション。
怜は、その色を、決して忘れることはなかった。

「君が教えてくれたんだ。僕の世界には、こんなにも美しい色があるんだって」

怜の言葉に、音々の手が、わずかに動いた。
その手は、怜の手を、力強く握り返そうとしていた。

「音々……」

怜は、音々の手を、強く握りしめた。
彼女の記憶は、もうほとんど残っていない。
それでも、彼女の心は、怜の言葉に反応してくれていた。

その夜。音々は、静かに息を引き取った。

怜は、彼女の最期を看取ることができた。
彼女は、安らかな眠りについた。
まるで、星になったかのように、静かで美しい顔をしていた。

音々の葬儀が終わり、怜は一人、研究室に戻った。
机の上には、音々がくれた「星の砂」の小瓶が置かれている。
小瓶の中の星の砂は、まるで音々のように、キラキラと輝いている。

「音々……」

怜は、小瓶を手に取った。
彼の心には、音々との思い出が、鮮やかに蘇る。
初めて出会った、図書館の屋上。
二人で笑い合った、病室の中。
そして、彼女が残した、最後の願い。

「私の病気を治すことよりも、あなたがあなたらしく生きていくこと。それが、私の一番の願い」

怜は、その言葉を胸に、再び研究の道へと歩み始めた。

彼は、音々が残した言葉を、決して忘れることはなかった。
音々が教えてくれた、生きる意味。
音々がくれた、希望という光。

怜は、音々との愛を胸に、脳科学者としての道を歩み続けた。

彼の研究は、やがて彼女の病気の解明へとつながり、未来の誰かを救うことになる。
二人の愛は、永遠に未来へ続いていくのだった。