咲は小さく息を吐き、天井を見つめた。
 「体育祭の練習、もう始まってるんだって。私、見学席からみんな走ってるの見てるだけ。……バカみたい」
 「……」
 「転んだら危ないって、運動ダメって言われて、ずっと我慢してるのに。なんで私だけ……。死ぬほど走って、汗かいて、笑ってみたいのに」

 その言葉の裏には、ただのわがままじゃない切実な思いがあることを、僕は知っている。
 薬を飲み続けなければ、彼女の身体は簡単に壊れてしまう。無理をすれば、命を縮めることだってある。
 だからこそ、僕は口をつぐんだ。