その夜。
 咲は日記帳に何かを書いていた。
 手はまだ少し震えていたけれど、文字は力強さを取り戻していた。

 「今日はオレンジジュース、少し飲めた。退院したら、また外の世界に行ける。お兄ちゃんと一緒に」

 ベッド脇で兄はそれを見つめ、胸の奥で静かな覚悟を固めた。
 ――まだ長い道のりだ。退院してもすぐに“普通”には戻れない。
 けれど、少しずつでも光を見つけられるなら、諦める理由はない。