その日の夕方、咲は久しぶりに少し長く目を覚ましていた。
 「……喉、かわいた」
 「水? お茶?」
 「オレンジジュース……」

 俺は慌てて売店に駆け込み、小さなパックを買って戻った。
 ストローを差し、ベッドの背を起こしてやる。咲はゆっくりと一口吸い込んだ。

 「…あじ……味、がする」
 ぽつりとこぼした声に、兄の胸が熱くなる。
 「そうか。よかった」
 「甘い。……おいしい」

 咲は弱々しく笑った。その笑顔は、何日も見られなかったものだった。