四日目。
 咲はほとんど眠り続けていた。目を覚ますたびに吐き気に襲われ、食べ物はほとんど受け付けない。看護師が食べるように促してくれるもダメだった。
 俺はベッド脇の椅子に座り、スプーンで口元にスープを運んだ。

 「少しだけでいい。ほら、一口」
 「……いらない」
 「咲」
 「もう、何食べても味しない。……死んでるみたい」

 その言葉に、兄はスプーンを握る手を止めた。
 胸の奥で冷たい恐怖が広がる。

 「死んでるみたい」――咲の口からそんな言葉を聞くのは初めてではなかった。
 だが今は、現実の重みを帯びすぎていた。

 「咲……俺がいる。生きてるって、証拠だろ」
 「……お兄ちゃんが言うなら、そうなのかな」
「もう、寝よう。明日がんばろう。」

 力なく笑って目を閉じる咲。そのまま深い眠りに落ちていく。
 俺はただ、その手を握り続けた。