夜。
 ようやく症状が落ち着いた頃、咲はか細い声で囁いた。
 「ねえお兄ちゃん……もしこれで失敗しても、後悔しない?」
 「しない。俺が決めたことだから」
 「ずるい。私が選んだみたいに言ってくれるんだ」

 咲は弱々しく笑い、眠りに落ちた。
 その横顔を見つめながら、兄は胸の奥に渦巻く恐怖を押し殺した。

 ――もし、この選択が間違っていたら。
 守るために選んだ道が、彼女を傷つける結果になったら。

 それでも、手を離すことだけはできない。