夜、咲の病室。
 「お兄ちゃん、会議してたんでしょ。……何のお話?」
 咲はカーテン越しにこちらを見ていた。目は鋭いが、声はかすかに怯えていた。

 嘘はつけない。
 「治療のことだ。薬を増やすか、新しい方法を試すか……」
 「どっちも嫌。やらない。」
 即答だった。咲は枕を抱きしめ、横を向いた。
 「どうせ、どっち選んでも私の自由はなくなるんでしょ。走れないし、学校だって行けない。だったら……」

 彼女は言葉を飲み込んだが、兄には続きが分かってしまった。
 ――だったら、生きてる意味がない。

 喉が焼けるように痛くなった。
 「咲。生きてる意味は、まだ分からなくてもいい。ただ、生きていれば……探すことができる」
 「お兄ちゃんはそう言うけどさ。お兄ちゃんにとって私は“妹”かもしれないけど……私にとって私は“患者”でしかないんだよ」

 その言葉に、心臓を鷲づかみにされた気がした。