夜。
 病室の窓から外を見ていると、咲が弱々しい声で呟いた。
 「ねえ……どうして私だけ?」
 「……」
 「体育祭も、修学旅行も、全部置いていかれる。私、何のために生きてるんだろう」

 彼女の細い肩が震えている。
 俺はそっと隣に座り、手を重ねた。

 「咲。……答えはすぐに見つからないかもしれない。でも、一緒に探す。ずっと隣に居るから。」
 「ほんとに?」
 「本当。医者としてじゃなく、兄として」

 咲は少しだけ目を閉じて、涙をこぼした。
 それは諦めの涙ではなく、わずかな希望に縋る涙だった。


 しかし兄は知っていた。
 この先の治療は、彼女にとってさらに過酷なものになるかもしれない。
 医者としての冷酷な判断と、兄としての願い――その間で、再び心が引き裂かれていくのを感じていた。