入院が始まると、咲は急速に心を閉ざした。
 「ねえ、また病院暮らし? 前みたいに」
 「……少しの間だけ。体を整えるために」
 「嘘だよ。またどうせ長引くんでしょ。」

 彼女の声は乾いていた。
 せっかく外に目を向け始めていたのに、また狭い病室に縛られる。
 その絶望が、彼女を沈めていくのが分かった。

 兄はベッドの脇に座り、必死に言葉を探した。
 「咲、治療は必要なんだ。これをしなきゃ……」
 「うるさい!」

 その叫びは鋭く、俺の胸に突き刺さった。
 「お兄ちゃん、また“医者”の顔してる! 私の気持ちなんて、どうでもいいんでしょ!」

 ――違う。違うのに。
 けれど、彼女の涙に押し潰され、言葉は喉で凍りついた。