帰り道、咲がぽつりと呟いた。
 「ねえお兄ちゃん。……私、走れなくても、誰かと一緒に笑えたら、それでいいのかも。」
 「そうだよ。病気があっても、笑える時間は作れる」
 「……うん」

 そのとき、咲はふいに立ち止まり、夜空を見上げた。
 星がひとつ、夕暮れの名残の中で瞬いていた。
 「私も、まだ大丈夫かな」
 「大丈夫だよ。俺がいる」

 咲はほんの少し涙ぐんで、それでも笑った。
 その笑顔は、彼女がずっと抱えていた孤独の殻を、ほんの少し割ったように見えた。