連れて行かれたのは、近所の小さな公園だった。
 「……公園?」
 「そう。ここのベンチから、夕焼けがきれいに見える。」

 咲は半信半疑で腰を下ろす。周囲では小さな子どもたちがブランコに乗り、笑い声を響かせていた。
 その声を聞いて、咲は少しだけ視線を落とす。

 兄はポケットから袋を取り出し、彼女の前に差し出した。
 「じゃーん。コンビニで買ったアイス」
 「……子どもっぽい」
 「いいじゃん。俺も食べたかったんだ」

 二人でアイスを食べながら沈む太陽を眺める。
 咲の口元が、ほんの少し緩んだ。

 「……ほんとにきれいだね」
 「だろ?」
 「私、ずっと空ばっかり見てたけど……お兄ちゃんと見ると、なんか違う」

 その言葉に、兄は胸が熱くなる。
 医者としてではなく、ただ「兄」として隣に座れている――それだけで救われる気がした。