夕方近く、兄はようやく校庭の隅で咲を見つけた。
 制服のままベンチに座り、空を見上げている。
 彼女の足元には、握りつぶされた薬のシートが散らばっていた。

 「咲!」
 駆け寄ると、咲は顔をしかめて僕を睨んだ。
 「……また来たの?」
 「心配したんだ。どこに行ってたんだよ」
 「別に。ここで空見てただけ」

 彼女はかすかに笑った。その笑みは、やけに弱々しくて、僕の心を締め付けた。
 「ねえお兄ちゃん。私さ、走れないんだったら、せめて空ぐらい見てたいの。……自由に見えるから」

 そう言って、彼女は深呼吸した。
 青い空を吸い込むように。

 僕はその姿に胸が熱くなった。
 彼女の病気は現実だ。薬も検査も、逃げられない。
 でも、彼女が求めているのは「自由」だった。