「……咲」
 俺はゆっくりと咲に近づき、強く抱きしめた。
 「そんなこと言うな。死んだら、もう二度と走れないし、笑えない。俺は……俺は、お前に生きていてほしい」

 咲の身体は小さく震えていた。
 泣いているのか怒っているのか、自分でもわからないように。

 「お兄ちゃんなんか、大嫌い…」
 そう言って押しのけた彼女の目からは、涙がぽろぽろと落ちていた。