夕方。
 兄はいつものように病院の仕事を終え、帰宅してすぐに咲の部屋を覗いた。

 「咲、薬、ちゃんと飲んだ?」
 ベッドの上で寝転んでいた彼女は、天井を見つめたまま答えない。
 「咲?」
 「……飲んでない」

 その言葉に、彼の顔から血の気が引いた。
 「どうして」
 「だって意味ないじゃん!飲んでも、走れないし、友達とも同じことできない!だったら……」

 咲は体を起こし、兄を睨みつけた。
 「だったら、死んだって同じでしょ!」

 静かな部屋に、その叫びが響いた。

 兄はしばらく言葉を失った。
 白衣を脱ぎ捨てて帰ってきたのに、咲にとっての彼はやっぱり“医者”の顔のままだった。