ふと気づくと、彼女の手はポケットの中の薬シートをぎゅっと握りしめていた。
 白い錠剤が、プラスチックの中で小さく光る。
 「こんなの、なくなればいいのに……」

 咲は立ち上がり、薬をグラウンドの隅へ放り投げた。
 カランと音を立ててシートが転がり、土の上に落ちた。

 誰も気づかない。みんな走ることに夢中で、彼女の存在さえ薄れていた。
 咲は胸の奥に黒い穴が空いたように感じた。