「……俊介さん」

もう一度、ちゃんと名前を呼んだ。
でもキスは降ってこない。
時が止まったように、動かない。
俊介さんの僅かな息づかいだけが感じられる。

焦らされて、痺れを切らしたのは私の方だ。
恐る恐る俊介さんの肩をぐっと押し、表情が見える程度に少しだけ距離を取る。

「俊介さん?」

「……恥ずかしい」

「えっ! なんで?!」

「すごく嬉しいんだけど、なぜかすごく恥ずかしい」

「嫉妬してたんじゃないんですか?」

「そうだよ。めちゃくちゃ嫉妬してる」

ほんのり顔を赤らめてふと視線をそらす。そんな可愛らしい反応をする俊介さんの首に手を回して、ぐっと引き寄せて自分からキスをした。全然上手じゃなかったけれど、受け入れてもらえたことにほっと安堵する。

「私だっていっぱい嫉妬してます。だって俊介さんのことが好きだから、私の知らない俊介さんのこと、他の人から聞きたくない。誰にも渡したくないです」

「俺だってそうだよ。俺の知らない心和のこと、他人が知ってるのが悔しい。だからもっと心和のこと教えて」

「私も、俊介さんのこといっぱい知りたいです」

今度こそ、影が落ちる。
さっき自分からしたキスよりも何倍も甘くて優しいキスが返ってきて、一気に幸せな気持ちで満たされた。私の単純脳細胞は、すぐに絆される。

でも、嫌じゃない。
むしろ、好きでいっぱいになった。

「俺は莉々花ちゃんとは絶対に結婚しないし、ましてや心和を誰にも渡すつもりはないから。ちゃんと覚えておいて。わかった?」

「うん、俊介さん大好き」

俊介さんの言葉は魔法みたい。手を伸ばしたらぎゅっと包み込むように抱きしめてくれた。

「ようやく笑ってくれた」

「えへへ」

俊介さんの胸に顔を埋める。優しい香りをいっぱいに吸い込んで、体中を俊介さんでいっぱいにした。

「幸せ」

そう呟いたら、少しだけ抱きしめる力が強くなる。耳元で、「俺も幸せ」と囁く声が聞こえて、体の奥から蕩けてしまいそうになった。