「ねえ、小児科って何歳までが一般的か知ってる?」

「……」

「心和は成人してるんだから、もう卒業してもらわないと」

先生の魅惑的な顔が近づく。感じる息づかいに心臓がドキンと高鳴った。

あ、キスされる……と思ったのに、一向に触れる気配のない先生の唇。至近距離で止められて、もどかしい気持ちに心臓だけがバクバク音を立てている。

「それにさ、牧野くんは俺の知らない心和を知ってる。むかつく」

「?!」

まさか先生の口から「むかつく」なんて言葉が出るなんて。そんな感情をあらわにしてくれる先生は普段の態度からかけ離れていて、そのギャップに不覚にも胸がときめいた。

「俺は大人じゃないし、できた人間でもないので。ただ、我慢してるだけ」

「先生……」

「名前、呼んで。呼ばなきゃキスしない」

「ええっ」

「心和だって名前で呼んでほしいって言ったよね」

「そ、そうですけど……」

バクンバクンと心臓が落ち着かない。だって今まで先生のことを名前で呼ぶなんて考えたことがなかった。それに、まさか私と拓海くんの先輩後輩関係を、先生が不満に思っていただなんて――。

先生が近い。すごくすごく。
触れそうで触れない絶妙な距離感。
もどかしくって、おあずけをくらっている気分。

「俺の名前、わかる?」

「わ、わかってます」

「待ってるんだけど」

「あわわ……え、えと、……しゅ……しゅんすけ……さん……?」

名前を呼んだだけなのに、体の奥からカアッと熱くなった。心臓もより一層バクバク音を立てている。

名前ってすごい。なんだか一気に恋人感が増した気がする。名前なんてずっと気にしていなかったけれど、これってとても大切なことだったのかもしれない。その人にとって特別な存在なんだって思わせてくれるから。