ああ、嫌だ。
こんなにモヤモヤした嫌な気持ち、先生に見せたくないのに。先生の前では100点な私でいたいのに。それなのに、ずっと我慢していた気持ちが溢れてきちゃう。

「……先に、先生の口から聞きたかったです。まさかあんな形で宣戦布告されるなんて思わなかった」

じわっと涙が浮かぶ。
佐々木先生はよくわからないといったように、首を傾げた。

「宣戦布告?」

「ふえっ……」

「ちょっと、心和?! 何があったの?」

ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。ここは佐々木先生のお家で、目の前には先生がいて、二人っきりでいるのに……。それなのにずっと不安が付きまとっていて私の心を蝕んでいる。

「……先生、莉々花ちゃんと結婚の約束したの?」

「結婚? なぜ?」

「だって莉々花ちゃんがそう言ってたもん」

「えっ?!」

「私の先生なのに……ふええ……」

困惑した表情の佐々木先生がぼやける。こんなに泣くつもりじゃなかったのに、悔しくて悲しくてとめどなく溢れてくる。どうしてだろう、こんな気持ちになるのは。

「不安にさせちゃったんだね、ごめん」

先生が悪いわけじゃない。心の弱い私がいけないことはわかっている。先生は私の目元を拭いながら、そっと肩を抱いてくれた。慈悲深く優しく包みこんでくれる佐々木先生を、どうして信じきれないのだろう。

「心和はさ、ヤキモチ妬いてくれてるんだよね?」

「ヤキモチ……」

急にストンと腑に落ちた気がした。
そうか、私のこのモヤモヤした気持ちは嫉妬だったんだ。

私の知らない佐々木先生を、莉々花ちゃんは知っている。嘘か本当かわからない結婚の約束も、私にとっては寝耳に水で……。そこはかとなく押し寄せる不安と羨ましい気持ちが、私の感情をぐちゃぐちゃにしていた。

こんなのきっと、佐々木先生にとっては迷惑でしかないのだろうけど。その証拠に、先生はまったく焦ることもなくいつもの穏やかで爽やかな顔をしている。