癒やしの小児科医と秘密の契約

佐々木先生がすっと私の手を握って歩き出す。
この現実離れした出来事に、私の思考は停止した。

佐々木先生と手をつないでる……?

「は、はわわ~」

ボンっと顔から火が出そう。
まさか、そんなことある?

先生のぬくもりが手のひらを通してじんわり伝わってくる。
あたたかくて大きな手。

「どうしたの?」

「もう死んじゃうかも」

「どうして?」

「先生と手つないでる。幸せすぎて死んじゃう」

「大げさだなぁ」

佐々木先生は何でもないようにくすくす笑った。

でも私にとっては何でもなくない。ずっと触れたいと思っていた先生と、手が! 手が! しかも先生から繋いでくれて、心臓がバクバク音を立て始める。

初めて、飲みすぎてよかったと思った。飲みすぎて迷惑かけているのに、私にとってはまさかのボーナスステージ突入。夢なら覚めないで、お願い。

「もうどうなってもいい」

「どうしたの?」

「先生、好きです」

「ありがとう。もう何度も聞いたよ」

「何度でも言いたくなっちゃうんです」

本当に、いくら言っても足りない。「好き」なんて、今まで言えなかったけれど、一度言ってしまえば案外すぐ言えてしまうものだ。

でも佐々木先生はまた困った顔をした。

「安易にそういうことを口にしたらダメだよ」

「え、どうして?」

「悪い男に騙されるよ」

「騙されないです。先生しか好きじゃないので」

「ははっ、わかったわかった」

佐々木先生はまるで小さい子でもあやすかのように、私の頭をぽんぽんと撫でた。

先生にとって私は恋愛の対象ではなくて、小児科の子どもたちと同じ扱いだ。それが悔しいのに、ほんのちょっとだけ嬉しい。こんなことでも構ってもらえていると思ってしまうから。自分の単純脳細胞が憎らしい。

そうこうしているうちに連れられて入ったのは、おしゃれなマンションだった。