癒やしの小児科医と秘密の契約

仕事モードの佐々木先生は、私なんて眼中にないからだ。いや、目には映るだろうけど、甘い空気は一切ない。ただ、いつも通り誰にでも優しい佐々木先生なのだ。

それがほっとするようで、ほんの少し寂しい。そんなことを思うのは我儘なんだろう。

私もいつも通り仕事をする。先生との触れ合いは、あまりない。それが当たり前な日常だし、けじめをつけることが先生との約束でもある。

「偉いねえ、心和ちゃんは。ちゃんとわきまえててさ」

千里さんが感心したように言うけれど、そんな褒められたものではない。仕事をするにあたりちゃんと気持ちを入れ替えたはずだった。それなのに内心、佐々木先生のことが気になって仕方がない。頭の中は佐々木先生のことでいっぱいだし、何ならイマジナリー佐々木が私に話しかけてくるくらいなのだ。

「……もっと自分に厳しくないといけないなと、反省中です」

「え、どゆこと?」

「私が浮かれていたら叱ってください」

「あはは、幸せそうでなによりだよ。でもさ、佐々木先生の方が浮かれてるんじゃないの?」

「それはないですよ」

「いや、あるよ。今日の佐々木先生は、いつもより優しいもん」

「いつもより優しいって、とんでもなくないですか?」

「そうなのよ、とんでもないのよ。私もついに釈迦佐々木だと納得する日が来たわ」

釈迦佐々木に賛同していなかった千里さんまでも納得させてしまう、佐々木先生の優しさ。それを誇らしく思うと同時に、そんな優しさを私だけに向けてほしいなんて、醜い独占欲がわき上がってくる。

自分がこんなにも強欲だとは思わなかった。

「お釈迦様を拝みたい」

「休憩になったら拝みなね」

「ですね。がまんがまん」

「偉い偉い」

そんな無駄話をしつつ煩悩を頭の隅に追いやり、改めて仕事に集中する。子どもたちに振り回されながら一心不乱に働いていたら、いつの間にか終業時間になっていた。

帰る間際、ようやくばったりと佐々木先生に出会う。一日働いたというのに、先生は疲れを微塵も感じさせない爽やかオーラを振りまいている。あまりにも後光が眩しくて、先生を前にして合掌した。

「……川島さん、何をしているのかな?」

「いえ、あまりの神々しさにちょっと拝ませていただいています。お気になさらず」

「なにそれ」

くすっと笑って佐々木先生も合掌。

「いつもありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

そんなやり取りを千里さんに目撃されて、「本当に拝んでるし」と大爆笑された。