癒やしの小児科医と秘密の契約

「佐々木先生が可哀そう」

「だよね。だってそれから佐々木先生に浮いた話、聞かないもの。先生の優しさも変わったんだよ。優しいは優しいけど、誰にでも当たり障りのない優しさに変わったっていうか。だから何か思うところあったんじゃないかなー?」

「むかつきます、その看護師」

「だからさ、余計に心和ちゃんがいいと思うんだよね」

「え……?」

「だって心和ちゃんは佐々木先生の仕事の邪魔をしないから。心和ちゃんがみんなの前で先生に告白した後も、誰一人仕事がやりにくくなってないもん。助かるわ~」

千里さんがまたバンバンと背中を叩いた。意外と手荒い。でも、先輩に悪く思われていないのなら、よかったと思う。

佐々木先生とはシフトが合わないとなかなか仕事中でも会えないし、話すことも仕事の話ばかりでちょっともどかしさも感じていたけれど、それが当たり前のことで。その当たり前を偉いよって褒められてるみたいでちょっと嬉しい。

とはいえ、進まない佐々木先生との仲をどうにかしたいとも思っているのだけど、なかなか上手くいかないのも現状なわけで。お試しで付き合うという”お試し”も、いつまでがお試しなのだろう。ある日突然、終わりが来たらどうしよう。

「う~~~悩む」

「なんか妄想始めたところ悪いけど、もうすぐ昼休憩終わるよ」

「はっ、やばっ」

「早くお弁当食べちゃいなー」

千里さんにケラケラ笑われながら、私は残りのお弁当を大急ぎで食べた。

頭の中は佐々木先生でいっぱいだったけれど、千里さんに言われたことも戒めとなり仕事モードにパッと切り替える。午後からの仕事も真面目に取り組み、これといって佐々木先生に絡むこともなく、ただいつも通りの慌ただしい時間が過ぎていった。

定時を過ぎた頃、まだスタッフステーションには多くの看護師が働いていた。奥のモニターの前には佐々木先生が座っていて、何やらカタカタとキーボードを叩いている。今日も遅いのかなと思いつつ、私は帰るために片づけを始めていた。