「せ、先生、そのお見合いっていつですか？」

「うん？　まだ具体的には決まってないよ。話が出たってだけで」

私は顔面蒼白になりながら、おかわりで運ばれてきたビールを半分ほど一気飲みする。飲まなきゃやってられない。むしろ飲んで心を落ち着けたい。

ドクンドクンと動悸が激しい。
落ち着くって、どうやって落ち着くの？
だって、佐々木先生がお見合いしちゃう。
嫌だ、嫌だ、嫌だ！

「先生」

「うん、なに？」

「私も立候補していいですか？」

「立候補？」

「私も先生とお見合いしたいです！」

ガヤガヤしていた店内が、しんと静まり返った。
視線が一斉にこちらに集まる。
でもそんなことどうでもよかった。

佐々木先生が誰かに取られちゃうくらいなら、当たって砕けたい。……いやまあ、砕けたら嫌だけど、それでも当たらず終わるのだけは嫌だ。だって今年の抱負は、『佐々木先生を振り向かせてみせる』ことだもの。

「えっと、俺とお見合い？」

キョトンとした佐々木先生は困惑の表情を浮かべる。まわりの看護師たちが、声にならない悲鳴をあげた。千里さんなんて、顔を真っ赤にして両手で口を押さえている。

みんなの好奇な目に当てられ、佐々木先生を困らせている自覚はあるけれど、走り出した私の気持ちは止まらなかった。

「いえむしろ、先生の彼女になりたいです。私、先生のこと好きなんです。だから、先生に振り向いてもらえるように頑張るので、よろしくお願いします。はい、乾杯！」

無理やりジョッキをガツンとぶつける。残っていたビールをガブガブと飲んだ。

「よろしくって、ええっ？」

「最近の若い子は積極的だねぇ」

困惑する佐々木先生の背中を、部長先生がバシンと叩く。部長先生だけが楽しそうにガハハと笑った。