癒やしの小児科医と秘密の契約

あの日――ナオくんが亡くなった日、心和はずっと落ち込んでいた。ポロポロと大粒の涙を流して、目を真っ赤に腫らして仕事にならないくらいだった。患者の目につかないように、看護師長に奥に追いやられていたのを目撃した。

医療従事者としてそれはよくないと叱られていたけれど、そんな風に目の前の出来事に思い切り感情移入できる心和を、少し羨ましくも思った。

『もっと感情を曝け出したっていいです。全部私が受け止めるから、悲しいなら大声で泣いてください。無理に笑わなくていいから』

心和の言葉にはっとなった。あんな風に感情が揺さぶられたのは初めてで、心がざわざわと不安定になる。

『佐々木先生はいつもニコニコしてるよね』
『佐々木先生は優しいし穏やか』

そんな周りの声で形作られた俺。争いごとが嫌いなもともとの性格もあるが、俺だって感情が爆発することはある。……あるけど、言葉に出して言わないことが多い。

だからこそ、感情をまっすぐに伝えてくる心和にいつも驚かされる。どうしてそんなにも自分の気持ちに素直でいられるのだろうと。

「無理に笑ってるつもりはないんだけどな。ははっ……」

と笑ったのに――。
ポロッと雫がこぼれ落ちて慌てて顔を覆った。

『佐々木先生は、無力なんかじゃないっ』

心和の声が耳に残っている。

「そんな力いっぱい叫ばなくたって……」

心和のぬくもりの余韻に浸りながら、気がすむまで泣いた。こんな風に大泣きしたのはいつ以来だろうか。

気持ちを整えてからそっとデスクに戻った。心和の姿を探すと、スタッフステーションで一人、真剣な顔で仕事をしている。

「心和」

「はい?」

「休憩に食べな」

チョコパイを差し出したら、一瞬にしてぱあっと顔が明るくなった。

「先生の休憩は? 一緒に食べてもいいですか?」

「いいよ」

「やった」

えへへと笑う顔がなんとも可愛らしい。
休憩室で横並びになってチョコパイを食べた。

「んー。甘いもの最高ですね。おいしーい」

「心和はチョコパイ好き?」

「はい、大好きです!」

ニコッと向けられた満面の笑顔がたまらなく愛おしい。そういえば最近、心和に“好き”と言われていなかったなと思いつつ……。

「俺も、好き」

心和と過ごす時間がとても心穏やかで、初めて休憩時間に誰にも呼ばれませんようにと願った。

それに、俺は心和の笑顔にずっと癒されていたんだなと、ようやく気づいた。